まるい色からのお知らせ(最新記事はすぐ下です)

 ★2014年12月14日、ブログサービス会社を、ココログからSeesaa BLOGへ引越しました。よろしくお願いします。
 新天地はこちら→ http://marui-iro.seesaa.net/

 
♪2014年12月6日付
 以前、四コマ小説ルールは、一コマにつき概ね300文字以内と書きましたが、今回の作品、【幽迎(ゆうごう)】にてそれを大幅に超えたため、今後は特にルールを設けないことにします。
♪2014年12月4日付
 まるい色初のクリスマス小説、【リナシェーレ】、掲載。 三視点から描いた小説となっております。
♪2012年3月15日付
 『遺書 ―― ANOTHER STORY』に続く、まるい色の小説・第三弾を掲載いたしました。こちらも四コマ小説なのですが、前回の作品はゆない。さんの四コマ小説ルール(ルールについてはゆない。さんのブログ参照)に準じて製作したのに対し、今回はまるい色ルールで製作。まるい色ルールと言っても、特にこれと言ったルールは……。まあ、一コマにつき概ね300文字以内、と言ったことくらいです。それから、今後の四コマ小説も、まるい色ルールで行くことになるかなぁと、おぼろげながら思っております。

※ リンクにつきましては、まずご一報ください。尚、当ブログ記事の無断転載、無断コピーは一切禁止いたします。

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2014年12月11日 (木)

【ここから×ごこから】 (四コマ小説)

 Scene1
『外食』
 携帯電話から、たった二文字のメール送信。
『はい』
 それに対する、たった二文字のメール返信。

 夕飯を外で済ませることが多くなったのは、家庭料理に不満をいだいていたからではない。
 どことなく居心地の悪い我が家。そこにいる時間を、少しでも減らしたかった。ただそれだけなのだ。

 Scene2
 八年にもなる結婚生活は、離婚していないから続いているに過ぎない。そんなふうに、感じ始めていた。
 二人の間には子供もいないので、結婚当初から今に到るまで、生活臭にこれと言った大きな変化もない。
 もう、自分達が何のためにひとつ屋根の下で暮らしているのかさえ、分からなくなってきていた。

 Scene3
 今晩、会社帰りに選んだ店は、途中の乗り換え駅近くにある行き付けのラーメン屋。
 厨房から立ち込める、いつもと同じ湯気の匂いは、仕事で疲れた俺を、少しだけ穏やかな気持ちにさせてくれる。
 そして、いつもと同じカウンター席に座り、いつもと同じ醤油ラーメンと焼き餃子を注文する。
 何度食べても、この店のラーメンと餃子は飽きが来ない。

 Scene4
 その後、いつもと同じ風景の中、いつもと同じ帰り道。
 唯一、そこだけを除いては……。
 八年間、妻に何ひとつあげたことのない俺が、なぜ初めてこんなことをしたのか、考えてみても良く分からない。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「ラーメン屋で……、持ち帰り用、買ってきた。君に……」
 家へ帰り、出迎えた妻の眼差しを額の辺りでおぼろげに感じながら、素っ気なく、俺は白い袋を手渡す。
「えっ、焼き餃子? これ、私に!? ……今夜は、クリスマス・イヴだもんね。プレゼント、ありがとう……、うれしい…………」
 彼女の目からあふれ出す涙の雫は、俺の肩口を濡らすのに、幾許も掛からなかった。

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2014年12月 6日 (土)

幽迎ゆうごう】 (四コマ小説)

 Scene1
 師走、何かと翌年の準備に追われる時期がやってきた。
 ある会社の昼休み、社員食堂でランチを終え、デスクに戻った大の仲良しOL二人組、臼井美來と滝元晴華。
「ねぇ晴華、見てみて。これ買ったんだ、来年の手帳。どう思う? 結構良い感じでしょ」
「わぁ~、オレンジ色のカバーが可愛いし、中身も書きやすそう。私も同じの買っちゃおっかなぁ。ねぇ、美來はどこでこれ買ったの?」
「ネットのアマヅン。買うんだったら、早くしないとなくなっちゃうかもよ。これ、かなり人気あるから」

 Scene2
 翌日の昼休み。
「昨日の帰り道、書店に寄ったけどなくて、家に帰ってからスマホで調べたんだけど、アマヅンはもう完売。それ以外もいろいろ探したんだけど、みんな既に売り切れちゃったみたいで。ガックシ……」
「それじゃあ、あたしのを、晴華に譲ってあげるわよ!」
「何言ってるの、だってそれは、美來が自分で使うために買ったものでしょ。悪いよそんなの」
「良いからいいから。あたしはこの会社でたった一人、同い年の晴華を、一番の親友と思ってるんだよ。だから、はい、どうぞ」
「え~っ、ほんとに良いの~。じゃあ、お金払うわよ」
「お金? いらないよ。いつも晴華には、いろいろ世話になったり、仕事を手伝ってもらったりしてるし。あたしからのクリスマスプレゼントだと思って、ね!」
「ありがとう。そしたら今度、何かお返しするよ、必ず、何かお返しする!」
「お返しかぁ……。あたしが今あげたこの手帳、大切に使って。例えどんなことがあっても、ずっと大事に持ち続けて。それが貴女からあたしへの、お・か・え・し。絶対、約束だよ!」
「分かった。ちゃんと大切に使うし、どんなことがあっても、ずっと大事に持ち続ける。私、絶対ゼッタイ、約束する!!」
 晴華は、微かに口角を挙げながら、パラパラと中を覗く。
「まだ何も書き込んでないから、新品同様よ」
「そっか、ほんとにありがとうね」

 Scene3
 数日後、日曜日の昼下がり。特に外出することもなく、自宅のリビングでのんびり寛いでいた晴華は、ミルクティーを片手に、何となくテレビのニュースを観ていた。
『今朝、南洋線の摩木元駅で、女性がホームから線路に転落し、走ってきた電車に撥ねられ、死亡しました。警察によりますと、今朝八時半ごろ、近くに住む会社員、臼井美來さん(二十六歳)が、大手河駅発、やのきた駅行きの電車に撥ねられました。臼井さんは、全身を強く打っており、およそ一時間後に、搬送先の病院で死亡が確認されました。列車の乗客に、ケガはありませんでした。警察は、周囲の目撃情報などから、臼井さんが自殺を図った可能性が高いとみて、調べています』
 ――どういうこと!? まさか美來が……、自殺なんて。全然そんな兆候なかったのに……。嘘でしょ!? 何で? どうしてよ、どうして――

 Scene4
 哀しみ癒える間もなく、新春の清々しさは、晴華を厚かましく覆い尽くす。
 会社の営業開始日、ぼんやり暁方のベッドサイドテーブルに、新年初めて、彼女は形見の品を開く。
「ウワッ! 何じゃこりゃ!?」
 驚倒し、それを放り出す晴華。ほんの一瞬だったが、まだ、まっさらなはずの中身から、確かに二日分だけ、ボールペンの文字が彼女の目に飛び込んできた。
 恐るおそる、今投げ出したばかりのそのオレンジ色へ、おもむろに、そっと、手を伸ばす。
『1月5日9:00/本日より通常営業開始』
『1月6日18:00/新年会・東弦荘にて』
『1月7日10:00/会議・2014年7~9月期、新製品顧客満足度レポート』
『1月8日14:00/インナール社にて、バードクリーンエース導入打合せ』
『1月9日19:30/Sと、フレンチレストラン・プランデールにてディナー』
 僅か十秒ほどの間に、もう書き込み量が二日分から五日分に増えている。
 ――何なのこの手帳!? それにこれって、誰の字? あっ、バードクリーンエースって、美來が受け持ってた仕事よね。そう言えば、どことなく彼女の文字に似てるような……。Sって何だろう? 彼氏だった関本さん?――
 寂滅した臼井美來の人生、その全てを背負わされる宿命のホイッスルは今この時、滝元晴華にけたたましく轟いた。

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2014年12月 4日 (木)

【リナシェーレ】 (三視点小説)

 あの頃

 当時、前の彼女と別れてから一年ほど経っていた俺・藤城真次(ふじしろ しんじ)は、街角でばったり遭遇した学生時代の男友達と、その後飲みに入った店で、酒の勢いも手伝って、良い女性がいたら紹介してくれるよう冗談交じりに相談する。彼はすぐさま、彼と同じ職場に思い当たる女性が一人いることを教えてくれた。
 数日後、初めて会った彼女・北岡砂璃弥(きたおか さりや)の印象はと言うと、仄かに切れ上がった目元、たおやかながらもどこか、筋の通った清潔感のある眼差し。それはまるで、早朝の雨上がりに、葉の雫を突き抜ける木洩れ日のようだった。
 俺から友人に頼んで紹介してもらったということもあり、二人はそのまま自然な流れで付き合い始めるようになる。

 それから四ヵ月ほど経ったその年のクリスマス・イヴは、超高層ビルにある展望フレンチレストランを予約、鮮麗な雰囲気の中、二人きりのクリスマスディナーを満喫した。今でもあの時の夜景は、映像として俺の脳裏にくっきりと埋め込まれている。そしてディナーの後、一緒に俺の住む1LDKのマンションへ。

「またこんなにゴミ溜めて~。なんか私がゴミの整理係みたいになってるじゃん」
 早速、砂璃弥からお咎めのひと言。
「ゴミコレクターの藤城って言ったら、ブログ仲間の間じゃ有名だからな」
 つまらないジョークで俺は返す。
「もう! くだらないこと言ってないで」
 眉間に些かのシワを寄せると同時に、ほんのりと微笑んでいるようにも見える砂璃弥の表情。
「ごめん、なんかほかのこといろいろやってると、どうしても後回しになっちゃって。今度からきちんとするよ」
 ソファーでくつろぎながら、俺はそう言った。

 程なく、リビングにやってくる砂璃弥。ソファーに腰掛け、俺の傍に寄り添いながら、袋の中からリボンが付けられた取って置きを取り出した。
「はいこれ、私からのクリスマスプレゼント」
 俺も、自らの右太股と、ソファーの肘掛との間に隠していた取って置きを差し出した。
「ありがとう、じゃ俺からもプレゼントな」
「どうもありがと」
 
「うわぁ~! これ、手編みのセーターか!! 嬉しいよほんとに。この、店で買ってきたマフラー、ちょっと見劣りしちゃうかもな」
彼女からは手編みのセーター、、俺からはマフラーのプレゼントだった。
「そんなことないよ、すごく嬉しい」

 約束

「クリスマスディナー、良かったよなぁ。来年のクリスマス・イヴも、またどこかのレストランで食事するか?」
「まだ一年も先のこと、今から決めなくても」
「まあな。でもあれだ、五年後の聖夜は、レストランでディナーだ。もう決めたぞっ!」
「何それ? 五年後のことなんて今から決められないでしょ」
「いや、五年後も俺たちの関係は今と変わらない。まあそのころはとっくに結婚してるだろうけどな」
 そう言いながら、俺は左腕をの肩に廻した。
「五年後なんてどうなってるか分からないぞ~」
 冷やかすような視線と同時に、右手で俺の左頬を軽く撫でながら、砂璃弥はそう言った。
「バーカッ! 大丈夫に決まってるじゃん。五年後の十二月二十四日、待ち合わせ場所は、今日と同じあの高層ビルのロビー、時間も一緒な」
 俺は砂璃弥の肩から左腕をほどき、その左手で掴んだ砂璃弥の右手を、お互いの太股の狭間に忍ばせるかのように潜り込ませた。
「五年後のクリスマスか~。そうだっ! 今からどこかのレストラン、予約しておこうか?」
「はぁ? 一年後の予約だってしてないのに、五年後の予約? 何じゃそりゃ!? だいたい店側が受け付けてくれる訳ないし」

「「ハッハッハッハッハッ!!」」

 それは、芳醇な赤ワインに酔わされた二人が、やや暴走ぎみに発した他愛無い会話、唯それだけのことのように思えた。

 こんな仲の良い二人だったが、翌年のクリスマス・イヴが、俺達を温かく迎え入れてくれることはなかった。それはちょうど、セミの鳴き声が聞こえ始めたころ。俺は、勤めていた医療機器販売会社から転勤を命じられる。一方、砂璃弥は俺と違い、正社員ではなくアルバイトという形で、広告代理店に勤務していた。仕事内容はとても気に入っており、既に六年以上も勤め続けていたらしい。俺の転勤先は鉄道を使って片道四時間ほど。逢おうと思えばいつでも逢える、と簡単に言えるほどの距離ではない。
 この、鉄道で片道四時間という距離が、二人の関係に微妙な影を落とし始めることを、当時の俺達は知る由も無く。初めのうち俺らは、二週間に一回程度逢っていた。それが徐々に減っていき、月に一回、さらには三ヵ月に一回ほどとなる。電話やメールはそこそこ続いていたが、それもだんだんと少なくなり。

 カエデの木も寒々しくなったころ、俺は電話でこう切り出した。
「なあ? 俺たち、滅多に逢うこともなくなっちゃったな」
「真次がまた以前のところに戻ってきてくれれば、もっと逢えると思うけど」
「うん。だけど俺が以前の支社にいつ戻れるかは分からないんだよ。砂璃弥が仕事を辞めて、こっちへ来るって気はないのか?」
「……悪いけどこの仕事、すごくやり甲斐があるし、楽しいし、続けたいのよ」
「そうか、俺は砂璃弥のこと、今でも好きだよ」
「私だって真次のこと、好きだよ」
「でも……、どうする?」
「私達、付き合い続けていくのは……、もう無理かも……、辛いけど」
 遂に砂璃弥は、こう切り出してきた。
「そうか。俺も辛いけど……、ここまでにするか」
「ごめんね……」
「いや、こっちこそ……、ごめんな」
「それじゃあ、……元気でね、真次」
「……砂璃弥も元気でな、さようなら」
「さようなら」

 Remember

 あれから四年の歳月が流れ、俺はこの春から、再び元の支社へ出戻り転勤となっていた。五年前のクリスマス・イヴに、酔った勢いで砂璃弥と話した約束なんて、もうすっかり脳裏からは消え去っている。そんな中で迎えた十二月二十三日の夜、俺は発泡酒片手に、リビングでバラエティー番組を観ながら、時折笑いを発散させていた。と、そこに映る夫婦(めおと)漫才師。

『五秒後のあなたも、今と同じく愛し続けるわ』
『五秒後ってすぐじゃねぇか! “愛し続けるわ”の“わ”のあたりで、もう五秒経ってるわ!』
『じゃあ、五分後のあなたも……』
『おいっ! 五秒とか五分とか短すぎねぇか!』
『じゃあ五日後?』
『ふざけんな! もっともっと!』
『もう、わがままなヤツ! それじゃあ五年後のあなたも、今と同じように愛し続けます』
『五年後も良いけどさぁ、例えば“五十年後のあなたも今と同じく愛してるわ!”みたいな、そういうロマンってものはないのかねぇ、おまえには?』
『五十年後なんて言ったら、あんたとっくにくたばってるじゃん! 私はまだピンピンしてるから、きっと別の男探してると思うけどな』
『クゥ~~~! ほんとにもう、おまえは良くそういうことが平気で言えるよなぁ』

 !! 俺は、突然あのときの約束を何年かぶりに思い出した。
 ――あのときの約束は? 確か五年前。ってことは五年後って約束だったから、ちょうど今年じゃねぇか。日にちは二十四日? そうだ二十四日だ、間違いない。おいっ! 二十四日っつったら明日じゃねぇか! ってまあそんなこと、どうでもいいか。しかしまあこんなこと、俺も良く突然思い出せたもんだぜ――

 そして迎えた翌二十四日。昨夜はどうでもいいと思っていたが、仕事を終えると、あのときに約束した待ち合わせ場所である高層ビルのロビーに、俺の体はあった。まだ約束時間の午後七時より、一時間も早い。一体自分は何をやっているんだ。決して来るはずのない彼女を、ここでずっと待ち続けようってのか。今だって彼女に未練はある。ていうか、大好きだ。別れてから四年も経つというのに。

 スマートフォンでゲームなどしながら彼女を待っていたら、一時間が経過するのはさほど長く感じられなかった。
 ――もう約束の時間だ。って、来るわけないよな。ほんと、俺ってバカみたい。でもこれが、男の性(さが)ってヤツなのか。まあそんなことはどうでもいい。さてと、帰ろうかな――

 と思ったクセして、俺はまだその場を動かなかった。どうしていつまでもそこに居続けたのか、それは自分でも上手く説明できない。
 十分が経過。『もう帰ろう』と、自分に言い聞かせるのだが、なぜか俺の体はソファーから離れることを躊躇う。
 時計の針が午後七時十六分を指したその時!

 再会

 相当悩んだ。
 だけど、逢いたい。
 しかし、心は揺れた。
 それでも、今回だけなら……。

 私はずっと、真次を想い続けていた。彼を忘れることなどできなかった。
 言うまでもないけど、あの五年前の約束だって、一度たりとも私の意識から離れたことはない。
 そして迎えた運命のクリスマス・イヴ。高層ビルのロビーは、静かに私を迎え入れる。十六分遅れたこと、真次に謝らなければ。

 入り口の自動ドアから、真っ直ぐそのまま歩を進める。
 二十メートルほど奥にあるベージュのソファーに、見覚えあるシルエット。
 その光景は近づくにつれ、ゆっくり、だが確実に、より明瞭なシェイプへと変化した。
 ……やや色白で、髪は少し短く、優しそうな眼元の奥に、一筋の力強さ。

「!! 砂璃弥、さん……」
この声。そう、独特の落ち着きある低音ボイス。一瞬にして私の心は、うららかな煌めきに抱かれる。
「……真次、さん」
「まさか来るとは思ってなかったよ」
「私だって、まさか真次さんがいるなんて思ってなかったわ。来てくれてるかどうか半信半疑で、どうするか迷っているうちに、遅くなっちゃったの。ごめんね」
「良いんだよそんなこと。それより、覚えててくれたんだ? 五年前の約束?」
「忘れる訳ないじゃない!」
「そうか、嬉しいよ。だけど俺、考えてみたらどこもレストラン予約してないぞ」
「大丈夫、私に任せて」

 外へ出ると、ピロティーやその周囲に飾られた、煌びやかなクリスマスイルミネーションが、二人をそっと包み込む。師走の東京、夜風がビルとビルの間隙をほんの一瞬だけ吹き荒ぶ。でも今の私にとってそれは、南国のまろやかなそよ風。
 ビルから徒歩約十分。艶やかな大通りを進み、ある細い路地のほうへ足を向けると、数十メートル先の暗がりに薄明かりがみえる。私は彼の手を引き、店の前へ。そこには、聞かされていた通り、やや寂れた可愛らしいイタリアンレストラン、『ビストロ・リナシェーレ』が佇んでいた。

「こんなところにこういう洒落た店があったなんて、知らなかったなぁ」
 彼はちょっぴり顎を上へ向け、不思議そうに建物の外観を眺める。
「私も、利用するのは今日が初めてなの。さぁ、入ろう!」

 “カランコロンカラ~ン”
「いらっしゃいませ!」
「予約していた北岡ですが」
 私の『予約していた』という言葉に、彼は少々驚きの表情を浮かべる。
「北岡様ですね。クリスマスディナー、十九時三十分からのご予約、二名様で承っております。では、上着をお預かりいたしましょうか?」
 二人とも、ウェイトレスの立花聖子さんにコートを預ける。
 
 レジカウンター脇では、高さ一メートルにも満たないくらいの小さなクリスマスツリーが、楽しそうにチカチカしている。
「それではお席へご案内致します、どうぞこちらへ」
 店内は四人掛けのテーブルが三卓のみ。クラシカルな雰囲気漂う小さなレストラン、まさしくビストロというのがピッタリな感じ。
 奥の右側角、窓際のテーブルへ案内されると、真次は、壁際の席に座るよう、私に勧めた。私が奥側の席に着くのをみて、彼は手前の席に腰掛ける。
 昔と全く変わらない彼の姿に、目頭が熱くなった。

「では、メニューをどうぞ。A・B・C、三つの中から、お好きなコースをお選びください」
「ねぇ砂璃弥、どうやってこんな店見つけたの?」
「え? それはまあ、ひ・み・つ」
「結構早めに予約しておいてくれたの?」
「そうねぇ、まあまあかな」




「コースはお決まりになりましたでしょうか?」
「あっ、まだ、もうちょっと……」
「では、どちらのコースにもアペリティーヴォ・食前酒が付いておりますので、先にそちらをお持ちいたしましょうか?」
「ああ、そうですね」
「アペロール・スピリッツ、ルビー・モスカートの、どちらかをお選びください」
「それはどういうお酒ですか?」
「アペロール・スピリッツは、アペロールをスパークリングワインとソーダで割ったカクテル。ルビー・モスカートは、カンパリをスパークリングワインで割ったカクテルでございます。どちらもスッキリとした飲み口の食前酒ですよ」
「じゃあ僕は、アペロール・スピリッツで」
「私は……、ルビー・モスカートで」
「アペロール・スピリッツとルビー・モスカートがお一つずつですね。少々お待ちください」

 私はここで、メニューに視線を落とす。
『X’mas Dinner / Lista di natale』
 改めて、クリスマスディナーであることを実感する。
 Aコースが四千円、Bコースは六千円、そして最も高いCコースに到っては八千五百円。
「折角だから、Cコースにするよ、砂璃弥は?」
「私も真次さんと同じCコースにするわ」

「アペリティーヴォをお持ちいたしました。ご注文はお決まりでしょうか?」
「二人とも、Cコースにします」
「Cコースがお二つですね。ではメニューをお下げ致します、少々お待ち下さい」
「それじゃあ、二人の再会を祝して乾杯といこうか?」

「「カンパ~イ!」」

「なあ? 元気だった?」
「…………まあね、真次さんは?」
「そこそこ元気だったよ。この五年間で変わったことと言えば……、また元の支社へ戻ったことくらいかな。砂璃弥は、まだ同じ仕事続けてるの?」
「……うん、続けてる。もうベテランの域って感じかな」
「そうか、でもあまり無理しないようにな」
「ありがと」




「失礼致します、アンティパスト・ミストでございます。それとこちらは自家製フォカッチャになっております。フォカッチャはおかわりできますのでおっしゃって下さい」
「では、いただきます」
「いただきま~す」
 どれもなかなかの味。彼は薄っすらと笑みを浮かべながら、トマトとモツァレラチーズのカプレーゼを口に運んでいる。






 前菜の皿がきれいになったころ、アンティパスト・ミストが運ばれてきた。
「失礼致します、『オマール海老に雲丹を添えたトマトソースタリオリーニ』でございます」
「あ、すいません。唐辛子のオイル、もしあったらもらえますか?」
「今、お持ち致しますね」
 立花さんが唐辛子のオイルを持ってきてくれるとすぐに彼は、「お先にどうぞ」と言ってくれた。お言葉に甘えて、先に私はちょっとだけそれをパスタにかける。多少からい物好きな彼は、私よりも多めにそのオイルをかけている。
「美味しいね、このパスタ」
「うん、うまいよ、とっても」






「よろしいでしょうか? 『金目鯛とポルチーニ茸のヴァボーレ』でございます」
「金目鯛なんて食べるのいつ以来かなぁ?」
「私も、いつ以来だろう? なかなか食べられないよね、美味しいなぁ」






「お待たせ致しました、『黒毛和牛フィレ肉のタリアータ・黒トリュフと赤ワインのソース』でございます」
 魚よりも肉好きな真次の表情に、尚一層の綻びが見て取れる。
「俺、フォカッチャのおかわりもらうけど、砂璃弥は大丈夫?」
「うん、私はまだあるし、おかわりはいいかな」
「ではフォカッチャ、お一つでよろしいですか?」
「はい、一つで」
 程なくして、テーブルに一切れのフォカッチャが供される。






 その後、私よりも少し早めに食べ終える彼。ゆっくり食べているようにみえて、案外早い。真次はそういうタイプだ。
「失礼致します、食後のお飲み物ですが、コーヒーか紅茶、いかがなさいますか?」
「コーヒーください」
「私もコーヒーで」
「コーヒーがお二つですね、お待ち下さい」




「失礼致します、ドルチェの『パネットーネ・苺のムース添えと、ブラッドオレンジのジェラート』でございます。今コーヒーをお持ち致しますので」




「コーヒーでございます、これで本日のコースは以上となります。では、どうぞごゆっくり」
 ――パネットーネって、クリスマス用のケーキね。う~、苺のムースとの調和が絶妙ねぇ。コーヒーはと。上に乗ってるこの泡が良いんだよなぁ。あぁ、なんて芳醇な香り、素晴らしい。わぁ~、ブラッドオレンジのシャーベットか。飲んだことはあるけど、シャーベットは初めて。サッパリしてて、口の中がスッキリするわねぇ――




「本当にどれも美味しかったわよねぇ」
「そうだなぁ、こんな素敵な店に連れて来てくれてありがとうな」
「いえいえ、どういたしまして。あ、そうだ! 大事なことがあったんだ」
 バッグの中から、リボン付きの包み紙で包装された、小さな箱を取り出す。
「何それ?」
「私から真次さんへ」
「ええっ? それって、クリスマスプレゼント!? でも俺、プレゼントなんて準備してこなかったよ」
「私のことは気にしなくていいの。はい、受け取って」
「ありがとう、開けるよ。…………わぁっ! これはロメガの腕時計!? 高かったんじゃないか?」
「フフフ、どうかな」
「いやぁ、本当に嬉しいよ。サンキューな」
 真次の嬉しそうな表情を見れただけで、私は最高に幸せ。








「名残惜しいけど、そろそろ帰るか。お会計お願いします」
「合計で、一万七千円になります」
「とても美味しかったですよ、また来ます。ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした~」
「ありがとうございました~」
 店を出て、薄暗い路地から、賑やかな大通り沿いの歩道へ。
「私の分、お金払うよ」
「何言ってるんだよ、プレゼントまでくれたんだ。お金のことなんていいって」
「それではお言葉に甘えて、ごちそうさまでした」
「うん。それより、砂璃弥が今でも俺のことを思っててくれたことが分かって、本当に最高の気分だ。なあ、砂璃弥? また俺と付き合ってくれないか?」
「…………」
 予想はしていた。それでも、返す言葉を私は持ち合わせていない。
「俺はあれからずっと一人、今でも一人だけど、砂璃弥には、もしかして付き合ってる男(ひと)がいるのか?」
「…………」
「いや、別に答えてくれなくてもいいよ。あ、そうだ! 今からこの辺りの店で、砂璃弥へのプレゼント探そうよ」
「……気持ちはすごく嬉しいけど。私、プレゼントもらっても、その~……」
「え? そっか、もし持って帰って彼氏さんにでも見つかったらまずいよな。じゃあ、今あるお金だけでも渡すよ」
「ほんとにいいから。そういうことしてくれなくて」
「分かったよ、なんか悪かったなぁ。プレゼント、ありがとな」
 私は、ただ黙って、頷いた。




「ご…………さ…………」
 ピーーッ! ピーーーーッ!!
 彼が声を発するとほぼ同時に、車道を走るタクシーのけたたましいクラクション。
「何て言ったの?」
「…………五年後も、再会してくれるかって」
「えっ!?」
「あぁ、いや、いいんだ。迷惑だよな。無理言ってごめん。今のは聞かなかったことにして」
「…………分かった、約束するよ」
「いいのか、本当に?」
「うん。五年後のクリスマス・イヴ。また同じ高層ビルの、同じロビーに、同じ時間ね。あ、もしかしたらまた、少し遅れちゃうかもしれないけど」
「少しくらい、全然構わないよ」

「あぁ、これでしばらくのお別れか」
「……すごく懐かしかったし、とっても楽しかったわ」
「俺の方こそ、めちゃくちゃ楽しかったよ。それじゃあ砂璃弥……さん、元気で」
「真次さんもね。五年後まで、さようなら…………」
 駅に向かって歩く。ただひたすらに、駅に向かって。
 振り返りたい。最後にもう一度だけ、真次の生の姿をこの目に焼き付けたい。
 今ここにある意識が、心が、張り裂けそうになる。

 ※ ※ ※

 三年前、私、北岡砂璃弥は、七色の世界へと旅立った。
 真次は、そのことを知らない。
 向こうに行ってから知り合った、立花聖子さん。実は彼女、私より三十年も前に人生を全うしていたらしい。 
 地上界で彼女が長く働いていた小さなレストランを再現、というか、そのまま復活してもらった。
 今回、協力してくれた彼女には、本当に感謝している。

 聖夜の聖子

 砂璃弥さんから、「私一人じゃどうすることもできないから、何か良い方法はない?」って相談を持ちかけられた時は、正直どうしようかと思った。
 そもそも、いくら元カレとの約束だからって、地上界で魂が肉体を離れて霊界に戻ってきた人が、再び地上界に、それも肉体を宿した状態で甦るなんて、どうやったって無理なんだから。
 でも、ほぼ上手くいったかなぁ、私が作世した幻想プログラム。ただあの一点だけを除けばね。それは、最後のクラクションよ。あぁ、あんなことになるなんて……。
 砂璃弥さんと別れて、彼女を一人にさせてしまったことを、藤城さんに『ごめんなさい』って言わせる設定だったのに、何だか知らないけど、言い直した時には勝手に『五年後も再会してくれる?』に置き換わっちゃってた。
 良く分からないけど、私がきちんと周囲の情景までプログラミングしておかなかったのが原因かなぁ。

 ああ、五年後、再び彼女の夢を、世密に叶えてあげられるだろうか。
 でもひょっとしたらその頃には、本当に地上界へ復活できるようになってたりして。
 まあそれは、二人の絆次第かもしれないなぁ。
 もし本当の再会が実現可能になったら、五年後の聖夜、あの高層ビルのロビーへ藤城さんを向かわせるよう、彼にテレパシー送っておかなくちゃ。
 あ、それと今回のことも、砂璃弥さんにネタばらししなくちゃいけなくなるわねぇ。ま、仕方ないか。

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2014年11月26日 (水)

【雛菊の夜】 (四コマ小説)

 Scene1
『警視庁東部署は二十五日、緑林市深宮の無職、漆田村芳恵(うるしたむらよしえ)容疑者(四十六歳)を、強制猥褻の容疑で逮捕しました。同署によりますと、漆田村容疑者は昨日午後十一時二十分ごろ、深宮の路上を歩いていた緑林市内の男性に背後から近づき、男性が穿いていたズボンと下着を膝下までずりおろした疑いが持たれています。調べに対して漆田村容疑者は「奴の雛菊は今までみた中で一番デカかった」と話しているということで、警察は、漆田村容疑者の動機や余罪などについて、厳しく追求する方針です』

 Scene2
「コイツだ!! 二ヵ月前、俺のズボンとパンツをいきなりずりおろしやがったオバハンは! 待てよ、『奴の雛菊は今までみた中で一番デカかった』? オイッ、これは一体? 聞き捨てならねぇ!! 雛菊のデカさじゃ誰にも負けねぇ、俺サマがここにいるじゃねぇか。このオバハン、まさか俺の特大雛菊のこと、忘れたのか? いや、絶対にそんなはずはねぇ!」

 Scene3
「よし! こうなったら、自分の目で直に確かめてやる!」
 俺はパソコンにかじり付き、今回の事件についてネットで調べた結果、事件現場や、被害者の名前・顔写真まで突き止めることができた。
 早速その晩から俺は、事件現場付近で張り込みをスタート。そして三日目の夜。プリントアウトしておいた顔写真に良く似た男が、こっちへ近づいてくるのを確認。悟られぬよう俺は尾行を開始。その男は、二階建ての古ぼけたアパートの一室に入っていった。二〇三号室。表札の苗字が、調べてあったものと一致。今回の被害者は、コイツに間違いない。

 Scene4
『警視庁東部署は二十九日、緑林市和北の自称会社員の男(三十八歳)を、強制猥褻の容疑で逮捕しました。 同署によりますと、男は昨日午後十一時半ごろ、深宮の路上を歩いていた緑林市内の男性に背後から近づき、男性が穿いていたズボンと下着を膝下までずりおろした疑いが持たれています。調べに対して男は「俺様の雛菊に勝とうなんぞ百年早いわっ」などと意味不明なことを話しているということで、警察は、精神鑑定も視野に入れ、慎重に捜査を進める方針です。尚、被害者の男性は、数日前にも別の加害者から今回と同様の被害を受けており、警察は関連を調べています』

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2014年11月22日 (土)

キャストはどした?

 ドラマ「相棒」、11月19日放送の第6話「ママ友」。何となんと、いつも最後に出てくるキャストのテロップがない。「相棒」が始まって以来、たぶんこんなの初めて。
 きっと忘れたんですね。だけど忘れるなんてことがあるのか!? 驚きです。

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2014年11月20日 (木)

ノスタルジー

 連ドラってほとんど観ませんが(観ているのは「相棒」くらい)、 登場する車から入るってこともあるものなんですね。 でもって、観ていたらこれがなかなかなもので、視聴継続中です。

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2012年8月21日 (火)

灯偲日ともしびの刹那】 (ポエム)

僕は君よりも 長く生きたい

でも決して君に 早く旅立ってほしい訳じゃない

先に僕が終焉を迎えたら 行き場ない陰影は君を抑圧するだろう

だからいつか 巡り逢えるその時まで

想い出ひたる万感は ほの暗い僕の胸に灯して

それがたとえ 一日だろうと 一秒だろうと

僕は君よりも 長く生きたい

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2012年8月15日 (水)

“ペンギン脱走”だっそうです

 ご存知でしょうか? 長野県須坂市の須坂市動物園から、ペンギンのヒナが脱走したというニュース。でも何かおかしいと思いませんか?

 脱走。脱走!?

 動物園は刑務所でしょうか?
 このペンギン、何か悪さをしたために、動物園に収監されていたのでしょうか?
 ペンギンは、自ら人間に頼んで、動物園で飼育してもらっていたのでしょうか?
 そもそもペンギン自身に、脱走したという自覚があるのでしょうか?

 いろんな考えを集約してひと言で言うなら、人間のエゴ。人間のエゴによって、ただ動物園の外に出ただけのペンギンは、人間に迷惑をかけたお騒がせ悪者ペンギンに仕立て上げられた、というお話でした。

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2012年7月12日 (木)

大津・いじめ自殺問題

 この件に関し、ネットの炎上が続いているとの記事がありました。その中には「いじめに関わっていたとされる生徒やその父親、また担任教師の実名や顔写真も公開されている」という内容も。

 しかし別の記事によると、何だかデマ情報も流布してしまっているようで、ある病院は大変な迷惑を被っているよう。またある著名人は自身のブログに、この問題の関係者と思われる写真を掲載していたようです。(その後、運営側によって削除されたようです)
 また、その内容には誤りがあったかもしれないという情報もネットでみました。まあこの著名人のブログについては、そのタイトルに「独断と偏見」とありますから、仮に誤った情報を掲載していたとしても関係ないよってことかな。(んなバカな)

 私はこの件について深入りした言動をするつもりはありません。マスメディアからの情報だけでは、到底真実なんて分かりかねますんでね。私が当ブログで少し前に書いた、あるテレビドラマ関係の記事なんかと比べ、事の重大さが違いすぎます。こういう問題、軽率な言動には注意が必要です。

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2012年7月 5日 (木)

なんだつぃみわってか!

 福田 萌ってタレントが、ファイナンシャルプランニング技能士検定試験2級に完全合格したそう。こういうニュースに関心を持つまるい色ではございませんが、たまたまネットで目にとまり、気になる言葉があったので。

<<完全合格>>

 ムムムムムッ!? 福田君、なんだつぃみわ!
と初めは思った。しかししかしこの試験、実は「合格」ではなくて「完全合格」が正しいらしい。だってこの試験を実施している日本ファイナンシャル・プランナーズ協会(日本FP協会)でそういう言葉を使っているのだから仕方ない。

 また「完全合格」の対照語として「一部合格」というのがあるらしい。なるほど、だから単なる「合格」ではなく「完全合格」なのね。 

 いやでも、「完全合格」から連想する言葉と言ったら、「不完全合格」、「完全不合格」、「不完全不合格」ではありませんかねぇ(笑)

 ちなみに私くしまるい色の座右の銘は、「不完全不合格」でゴザイマスッ!!

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